******「昔話『猿蟹合戦』と食育」抄録原稿から*******************

 様々な企業の教育ツールを制作してきた経験から、学ぶ側のモチベーションをいかに高め維持していく事が大変重要だと痛感しています。これは特に教育の「入り口」が重要だと言うことです。
 ふとしたきっかけから、『猿蟹合戦』に登場する助っ人の顔ぶれが、すべて食べ物に関わること、そして海の幸・山の幸、さらに農作物(穀物)に大別されることに気付き、何か大きな意味が含まれていると感じました。

 江戸時代に赤本が登場した背景には、主要な大河川の用水・土木工事ラッシュ、過剰な新田開発、100年間で2倍以上の人口爆発などによる本田畑の荒廃、自然の荒廃があり、その反省から転換した官の農政と、赤本という町民向け教育コンテンツが上手く噛み合い、世界に誇る「江戸の循環型社会」へと繋がった、そのように考えられました。

 現代では、専門家であっても昔話や御伽噺を「子供向け」の話と解説する人は少なくないですが、果たしてそうなのか。食べ物を粗末にした猿は、海の幸、山の幸、穀物や食べ物に関係する様々な「助っ人」達に執拗に懲らしめられ、首を跳ねられる。子供の頃に何度も聞かされた昔話を、親となって自分の子供に伝えるとき、年を取り孫に伝えるとき、この昔話が伝えようとする本当に大事なこと、「食べ物を粗末にするな」というメッセージをより深く理解していなければならない。
 そしてこれは、3万年まえの狩猟採取生活の頃から変わらぬ、自然と共存した「持続可能な社会」のために語り継がれる神話の核となるものであり、現代日本において一番欠けているものではないでしょうか?